「お腹が痛い!!これは重症の腹痛ではないか?」

腹痛を起こす原因はたくさんありますが、より重症なものに腹膜炎(ふくまくえん)があります。

これは、腹膜に炎症が及んだ状態です。

腹膜に炎症が及ぶと、腹膜刺激症状(ふくまくしげきしょうじょう)といって激痛を伴うことがあります。

では、どのようなときに、この腹膜刺激症状を疑い、腹膜炎という重症な状態になっていると見極めればいいのでしょうか?

今回は、腹膜刺激症状についてまとめました。

腹膜刺激症状とは?

お腹の中の病気の中には、炎症がその臓器にとどまらず周りに及ぶことがあります。

なかでも、その炎症が腹膜(ふくまく)に及ぶと腹膜刺激症状という激痛を伴うことがあります。

腹膜刺激症状は、お腹の内側の壁が、やけど(熱傷)を起こしたような状態です。

先ほども説明したように、腹膜に炎症が及んだ状態が腹膜炎です。

これを図で見てみましょう。

まずお腹は上の図のように腹膜腔(ふくまくくう)と後腹膜腔(こうふくまくくう)にわけることができます。

腹膜腔は(壁側)腹膜に覆われています。

腹膜腔の中で、胆のう炎や腸炎などの、何らかの炎症が起こり、それが腹膜に及ぶと腹膜炎となり、腹膜刺激症状を起こします。

上の図では腹膜に炎症が及んでいるのが局所的であり、限局性腹膜炎と呼ばれます。

しかし、次のようになるとさらに重症となります。

すなわち局所的ではなくて、腹膜の広範囲に炎症が及んでいる状態です。

これを汎発性腹膜炎(はんぱつせいふくまくえん)といいます。

広範囲に腹膜に炎症が及んだこの状態では、腹部全体が板のように硬くなり、板状硬(ばんじょうこう)と呼びます。

 

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腹膜刺激症状の原因疾患は?

このような腹膜に炎症が及び腹膜炎を起こしてしまう病気には、

  • 炎症疾患
  • 消化管穿孔
  • 血行障害

などが挙げられます。

炎症疾患

炎症疾患では、

  • 虫垂炎
  • 憩室炎
  • 腸炎
  • 胆のう炎
  • 膵炎
  • 子宮付属器炎

などが原因となります。

炎症が近くの腹膜に及んだ場合に、腹膜炎となります。

消化管穿孔

消化管穿孔(しょうかかんせんこう)とは文字通り、腸管(消化管)が穿孔(せんこう)つまり、破れてしまうことです。

  • 胃十二指腸穿孔
  • 結腸穿孔

などがあります。

腸管が破れると腸内のものが腹膜腔に漏れ出てしまいます。

無菌状態の腹膜腔に、食べたものが出てしまうと、腹膜炎となります。

消化管が破れてしまうと、通常手術が必要となります。

消化管穿孔の診断には、腹膜腔にガスが漏れ出ている(遊離ガス)ことを腹部レントゲンやCT検査で確認することが重要です。

血行障害

  • 絞扼性イレウス
  • 腸間膜血栓症
  • 卵巣捻転
  • S状結腸捻転

などが原因となり、血行障害が起こり腹膜炎を起こすことがあります。

 

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腹膜刺激症状の診察・検査は?

腹膜刺激症状を評価する際には、

  • 筋性防御
  • 反跳痛(Blumberg徴候(ブルンベルグ徴候))
  • 踵落とし衝撃試験
  • 咳嗽試験

が重要です。

一つ一つ見ていきましょう。

筋性防御(きんせいぼうぎょ)

筋性防御とは、意識せずにお腹を触ると腹筋が緊張してお腹がカチカチに硬くなっている状態で先ほど説明した板状硬とも呼ばれます1)

お腹の力を抜きたくても抜けない状態です。

反跳痛(はんちょうつう)(Blumberg徴候(ブルンベルグ徴候))

反跳痛(はんちょうつう)はBlumberg徴候(ブルンベルグ徴候)とも呼ばれ、

  • お腹を押すときよりも、離したときのほうが痛みが強くなること

です。

より厳密には、医師がお腹の触診をする際に、数本の指でお腹をゆっくり2−3秒圧迫して、それを急に離します。
このときに押したときよりも、離した際に痛みが増強し、これを反跳痛(Blumberg徴候(ブルンベルグ徴候))と呼びます。

その様子の動画です。

踵落とし衝撃試験(かかとおとししょうげきしけん)

これは、つま先立ちをして、急に踵(かかと)を落とします(地面につけます)。

その際に、痛みが増強した場合は、腹膜に炎症が及んでいると判断し、これを踵落とし衝撃試験と言います。

咳嗽試験(がいそうしけん)

ここまでの3つの方法が有名ですが、それに加えて咳嗽試験というものもしられています。

これは文字通り咳嗽(=せき)をした際に痛みが増強するかを確認する試験です。

痛みが増強すると、腹膜に炎症が及んでいると判断します。

腹膜刺激症状の診察・検査の感度・特異度は?

これらの4つの診察・試験の感度・特異度・陽性尤度比(陽性LR)・陰性尤度比(陰性LR)は以下のようになります2)

このうち陽性尤度比は、数字が大きいほど腹膜炎の確定診断に優れた診察・検査であるということができ、板状硬が5.1と最も高いことから、板状硬を確認することが最も診断能が高いといえます。

実際は、1つだけではなく複数の診察や検査を組み合わせて行います。

これらから腹膜刺激症状が陽性である、つまり腹膜炎があると判断した場合は、採血検査の他に腹部エコー検査、レントゲン検査やCT検査などを行い、その原因を突き止めることなります。

腹膜刺激症状の治療は?

腹膜刺激症状を認める場合、腹膜炎を起こしている可能性が高く上で述べたように精密検査をしてその原因を突き止めます。

治療としては、その原因となっている病気の治療が行われます。

すなわち、一例としては

  • 虫垂炎→手術
  • 憩室炎→保存的治療
  • 膵炎→保存的治療
  • 消化管穿孔→手術

などが一般的な治療となります。

最後に

腹膜刺激症状についてまとめました。

  • 腹膜刺激症状は腹膜に炎症が及んだ腹膜炎の結果生じる激烈な腹痛のこと
  • 腹膜刺激症状の原因となる病気には、炎症、穿孔、血行障害などがある
  • 腹膜刺激症状の有無を判断する診察方法には主に4つある
  • 中でも板状硬の診断能が高いことが報告されている。
  • という点がポイントです。

「いつもの腹痛じゃない!」
「あまりに腹痛が強い!」

という場合は、お腹を押さえてみて意図せずにカチカチになっていないかをチェックしてみましょう。

また背伸びをして踵を落として痛みが増強するか、咳をすると痛みが増強するかなどもチェックしてみてください。

もし該当する場合は、重篤な腹膜炎を起こしている可能性がありますので、医療機関を受診しましょう。

参考文献)
1)レジデントノート Vol.15 No.8(増刊) 2013 P185
2)マクギーの身体診断学