食中毒は、感染してから症状が出るまでの「潜伏期間」というものがあります。
風邪などと同じように、感染してから体に出るまで、原因物質が潜んでいることになるのですが、食中毒では潜伏期間が原因を特定するのに役立つことがあります。
ですので、急性胃腸炎の症状がある場合には、何日前にどのようなものを食べたのかを思い出すことは非常に重要です。
そこで今回は、食中毒の潜伏期間について
- 原因
- 原因別潜伏期間
- 短い場合の原因
などをお話ししたいと思います。
食中毒の潜伏期間と原因となる病原体・食べ物は?
食中毒の潜伏期間を知るには、どのような病原微生物がどのような食べ物に含まれることがあるかを知る必要があります。
食中毒を起こしうる病原微生物は大きく、
- 細菌
- 寄生虫
- ウイルス
にわけることができます。
なかでも、細菌性が70%以上ともっとも多い病原微生物となります。
食中毒を起こす細菌性の病原微生物
食中毒を起こしうる細菌には
- サルモネラ菌・・・8〜48時間
- その他の病原性大腸菌・・・12時間〜5日
- 腸炎ビブリオ・・・1日以内
- エロモナス・・・1日以内
- 赤痢菌・・・1〜5日
- コレラ菌・・・1〜5日
- 腸管出血性大腸菌・・・2〜8日
- カンピロバクター・・・2〜10日
- エルシニア・・・3〜7日
- チフス菌、パラチフスA菌・・・10〜14日
などが挙げられます1)。
サルモネラ菌
サルモネラ菌は、鶏卵や卵調理品が主な原因食品となり(それ以外には鶏肉・レバ刺し・犬や亀などのペットを介した感染がある)、8〜48時間という短い潜伏期間を経て発症します。
急性腸炎として、発熱・水様下痢・腹痛などを主症状としますが、それ以外にも血便・嘔気・嘔吐を伴うこともあるのです。
その他の病原性大腸菌(腸管出血性大腸菌)
病原性大腸菌には、3種類の抗原型(O抗原・H抗原・一部K抗原)がありますが、一般的に多く耳にすることがあるものとしては、O157(腸管出血性大腸菌EHEC)があります。
微熱・悪心・嘔吐・下痢・腹痛・血便などの症状が現れますが、典型例では虫垂炎を思わせるような腹痛や鮮血便です。
腸炎ビブリオ
腸炎ビブリオは魚介類に含まれることがあり、潜伏期間は1日以内と短いのが特徴です。
血便の頻度は中頻度といわれ、嘔・腹痛・下痢・発熱といった症状が起こります。
エロモナス
本来エロモナスは河川水や湖、汚水中や沿岸海水中などの自然環境に分布し、淡水魚・カエル・ヘビなどの冷血動物の病原菌ですが、淡水魚・牡蠣・海水産食品・飲料水によっても引き起こされます。
潜伏期間は1日以内で胃腸炎のような症状が出現し、中でも水溶性下痢が特徴ですが、比較的軽度で無症状な場合もあります。
赤痢菌
赤痢菌は、通性嫌気性グラム陰性桿菌(腸内細菌科で食品や水に含まれる)で、インドなどのアジア圏に多く、世界的には小児(80%)に多いものの日本では70〜80%が青年層を占めています。
全身倦怠感・悪寒・発熱・水様性下痢など、1〜5日(3日以内が多い)の潜伏期間を経て、発症するのです。
コレラ菌
経口感染(魚介類や水)によって起こるコレラは、日本において安政年間に大流行しましたが、上水道設備とともに減少している現状です。
数時間〜5日ほどの潜伏期間を経て発症し(多くは1日前後)、下痢や嘔吐が主症状になります。
カンピロバクター
汚染された水、鶏肉やその加工食品などを経口摂取することで感染します。
潜伏期間は他の原因に比べて長く、2〜5日(10日程度のことも)で、下痢・血便・発熱・腹痛・嘔吐などの症状が出現します。
エルシニア
豚肉・犬・猫・ネズミ・鳥類・魚介類など、保菌獣から直接、または飲食物を介して経口的に感染します。
潜伏期間は1〜10日で、子供に多く、乳幼児では下痢、幼小児では終末腸炎・虫垂炎・腸間膜リンパ節炎などが多く出現します。
チフス菌、パラチフスA菌
水や食品などが原因菌となり、発展途上国(東南アジア・南アジア・インド・アフリカ・中南米)で上下水道などの衛生環境が整っていない場所での発症が多くあります。
8〜14日の潜伏期間で、38度以上の発熱・バラ診(胸腹部)・肝脾腫・下痢などの症状が出現します。
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食中毒を起こす寄生虫の病原微生物
食中毒を起こしうる寄生虫には
- クリプトスポリジウム・・・3〜10日
- ランブル鞭毛虫・・・1〜4週
- 赤痢アメーバ・・・2〜3週
などが挙げられます1)。
クリプトスポリジウム
食品や水が原因となりますが、人畜共通感染症で、人以外にも牛・豚・犬・猫などにも感染します。
2〜10日ほどの潜伏期間を経て、水様性下痢・腹痛・全身倦怠感・食欲不振・悪心などの症状が主なものの、中には軽度の発熱を伴うこともあります。
ランブル鞭毛虫
汚染飲食物からの経口摂取や水系感染が多く、日本では0.1%以下と少ないものの、熱帯夜亜熱帯の発展途上国では20〜30%の感染率があります。
1〜4週間の潜伏期間の後発症しますが、無症候性・急性・慢性に大別され、腹痛・下痢・悪心・嘔吐などが主症状です。
赤痢アメーバ
性感染や水などが原因で、日本では男性同性愛行為・発展途上国への旅行・知的障害施設での集団感染などが多くあります。
潜伏期間は2〜3週間と長く、下痢・粘膜便・腹部膨満感・腹痛などを伴いますが、慢性型と急性型があります。
食中毒を起こすウイルス性の病原微生物
食中毒を起こしうるウイルスは
- ノロウイルス・・・3〜40時間
- ロタウイルス・・・2〜3日
などが挙げられます1)。
ノロウイルス
多くは生牡蠣からの感染で、12〜2月の感染が多く、食中毒の原因物質としてはもっとも患者数が多いものです。
1〜2日の潜伏期間を経て、悪心・嘔吐・下痢・腹痛などが主症状で、脱水症状に注意する必要があります。
ロタウイルス
小児の急性胃腸炎のほとんどがこのロタウイルスで、糞便などから感染し、冬から春にかけて流行します。
2日ほどの潜伏期間の後、発熱・腹痛・嘔吐・激しい下痢を伴い、これらの症状が1週間ほど続きますが、現在では予防接種もあります。
食中毒の潜伏期間を一覧にすると
数時間の短い潜伏期間で発症するものから、数日間の長いものまでがあり、まずは原因を探ることが重要になります。
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食中毒の潜伏期間が短い場合
潜伏期間によって、上記で説明したようなものが様々ありますが、潜伏期間の短い1日以内で起こるものには
- サルモネラ菌・・・8〜48時間
- その他の病原性大腸菌・・・12時間〜5日
- 腸炎ビブリオ・・・1日以内
- エロモナス・・・1日以内
- 赤痢菌・・・1〜5日
- コレラ菌・・・1〜5日
- ノロウイルス・・・3〜40時間
などがあります。
これらは食物などによる経口感染が多く、卵・肉・魚介類・水など、直前に口にしたものを思い出すことが重要です。
食中毒の潜伏期間が長い場合
逆に、直前には思い当たるものがない場合、以下のような潜伏期間の長いものが原因であることが考えられます。
- 腸管出血性大腸菌・・・2〜8日
- カンピロバクター・・・2〜10日
- エルシニア・・・3〜7日
- チフス菌、パラチフスA菌・・・10〜14日
- クリプトスポリジウム・・・3〜10日
- ランブル鞭毛虫・・・1〜4週
- 赤痢アメーバ・・・2〜3週
- ロタウイルス・・・2〜3日
これらの場合、旅行歴や行動を思い出してみることが重要になります。
1)感染性腸炎A to Z第2版 P4
最後に
食中毒の潜伏期間についてまとめました。
- 食中毒の原因には、細菌・寄生虫・ウイルスとある
- 潜伏期間の短い数時間〜1日以内のものから、数日〜数週間のものまである
- 潜伏期間が短い場合、経口感染であることが多く、卵・肉・魚介類・水など、口にしたものを思い出すことが重要
- 食事で思い当たることがない場合、潜伏期間の長いものが原因であることがあり、行動を思い出すことが重要
食中毒では、大変苦しい思いをします。
原因となる病原微生物を出し切ることで自然回復するものから、死に至るほど重篤な症状になるものまでさまざまです。